何年か前のこと。ある朝起きると、突然右肩が挙がらなくなり、無理に動かすと激痛が走るようになっていた。はじめは寝違えたのかと思ったが、1週間たっても2週間たっても治らない。「ははあ、これが世に言う四十肩だな」と妙に感心しつつ同僚の整形外科医に相談した。 同僚は、左45度の流し目視線でにやっと笑って言った。「本当はね、四十肩なんていう病気はないんだ。全部五十肩なんだよ。」専門家を疑うわけではないが、私も畑違いながら医者の端くれである。確認のため医学書で調べてみたところ、確かに五十肩という病名はあるが四十肩はない。それにもかかわらず四十肩と言う言葉は世の中に通用している。誰かが40歳代でかかった五十肩を哀れんで名前を付けてくれたのであろうか。 それから2年ほど経過した現在、症状は改善してきたがまだ痛みは完治してはいない。この五十肩を経験して、私は”治らない体の状態”というのを初めて経験した。それまでは風邪、肺炎、副鼻腔炎など呼吸器系の病気を経験したが一応どれも完治してきた。そのほかには、馬鹿は死ななきゃ直らないという病気や、生まれながらの運動音痴などを除いて、病気らしい病気はない。五十肩については、「ああ、この肩の不調は棺桶に入るまで引きずるんだろうな。」と直感したのだ。「きっとこれからこのような元に戻らない異常が次々とでてくるに違いない。」そんな苦笑いとともに五十肩を受け入れたとたん、来た来た、中年太りになるわ、(おそらく体重のせいで)ひざは痛むわ、老眼で目はかすむわ、尿の出は悪くなるわ、急にいろいろな症状が噴出した。 「ええい、ほかにはどうだ、何でも来い!」という気分の今日この頃である。 |