2020.11.14 院長コラム
人生に新鮮さがなくなったら人は生きていけないのだろうか?
最近年とともに、普通のことは良くも悪くもいろいろ経験してきて、感動が少なくなってきていることに気づきます。極端な話、子供のころは年末年始が来るだけで何かしら新しいことが起きるようなワクワク感がありました。見たこともない食べ物をみると、「どんな味がするんだろう?きっと自分の知らないおいしい食べ物なんだろうな?」なんて想像したり、素敵な女性を見ると、それだけでこの素敵な人はどんな素敵な生活をしているのだろうとどきどき妄想(誤解?)したりしました。たとえ隣町であっても、知らないところに行くと、物珍しさや不安を抱くこともしばしばでした。
要するに新しい感動がなくなってきている。これは良くも悪くも働きます。
よいことは、毎日多々あります。感動がないのではなく、あらゆることにある程度の予想がつくので、前もって心の準備や物理的な準備をしておくことができます。失敗した点については予想がつくのでたぶん同じ間違いをしないように行動の軌道修正ができます。それにもちろん何といっても、過去の情報の蓄積があるので仕事もできている。会う患者会う患者すべてが新鮮に見えて「おお、この人もあのひとも初めてみる珍しい病気だ」なんて考えていたとしたら、ただの馬鹿な医者です。
悪いことは、人生に新鮮味が少なくなること。おいしそうな食べ物を見ても、以前に食べて似たようなものから類推します。特に以前は大好きだったラーメンなんか、このラーメンの本場札幌で飽きるほど食べてきたため、どのラーメンを食べてもおいしい(別な言い方をすると、どれを食べてもそこそこおいしいので、新しい店ができてもまあ、外れはないだろうけど札幌ラーメンはどれもおいしいからこんなもんだろうな、なんて考えちゃう)。もっと悪いのは、初対面の人と会ったり、TVなどであったこともない人を見ただけで、今までの経験上で評価をしてしまう。いわゆる先入観ていうやつです。
そんなこんなを感じてくると、ふと思う。「人生に新鮮さがなくなったら、人は生きていけないのだろうか?」生きてはいける、でも楽しく生きてはいけないかもしれない。それで皆、何かしらの娯楽や新しいことを探すのだ。・・・・・最近まではそう思っていました。
でも、ますます年を取ったのかもしれないですが、逆にあながちそうでもないのではないかと最近思わされます。例えば夫婦生活。毎日毎日同じ顔のおばさんと朝から晩まで顔を合わせてます。仕事上うちは開業医と看護師なので、朝起きたらおばさんがいて、仕事に出たら(2F自宅の1Fです)そのおばさんが白衣を着て職員にまじって仕事をしていて、仕事を終えて階段を上がるとまたそのおばさんがご飯を作っていたりする。本当にご苦労様ですと感謝はしているのですが、とにかく年中一緒。新鮮さがない。・・・・・と最近までは少し思っていたかもしれません。
が、最近はもうそれも超越してしまって・・・・・よいことが二つあります。一つは、「こんなに新鮮味がないのに、このおばさんは、このおじさんにずっと付き合ってくれている!」なんて思えてくることです。相手がおばさんならこちらもおじさんです。もう還暦を迎え、そろそろお爺さんに近づいているのかもしれません。そう思うと、倦怠感だけではなく、感謝の気持ちまでわいてくるのだから不思議です。
もう一つのいいことは、目を閉じて想像してみてくださいよ、あなたの目の前に砂漠が広がっています。前も右も左も一面砂です。そこを歩き続けて、いい加減砂丘以外見当たらなかったのですが、ふと見ると目の前に小さなトカゲがいました。ほとんど保護色で分からなかったんですが、少し動いたので見えたのです。あなたは思う「こんな殺伐とした砂漠にも、お前は生きてるのか、えらいな。」しかしトカゲもこちらに気づいて、あっという間に姿を消します。それからあなたはまた延々と歩き続けます。本当は何も飲まず食わずだと死んでしまいますが、想像の世界なので死にません。それから二日も三日も、時には1週間も、また砂と空しか見えない日々が続きます。するといい加減嫌になったころ、今度は砂の上にちょびっと雑草が生きているのか干からびているのか、ぎりぎりで何とか育っているのを見かけました。 そこでまたあなたは思う。「こんな雨も降らない砂漠にも、お前は根を張っているのか、えらいな。」夫婦生活って、そんな感じかもしれません。普段が平たんな砂漠だったり、未知のことのない見慣れた世界だけだったりするのに、忘れたころに相手の知らないことや新鮮なことを見つけると、とっても嬉しくなるんですね。
さて次に、最初の疑問に戻ります。「人生に新鮮さがなくなったら、人は生きていけないのだろうか?」皆さんもちろん答えは知ってますね。生きていけます。きっとね。もしも人生に新鮮さや感動がなくなったように見えても、必ずそれは先に待ってます。それが頻繁にある訳ではない、だからこそ新鮮さや感動はますます価値を増すのです。現在を新鮮さや感動にかける人生で過ごしている方、とりあえず毎日毎日前へ歩いてくださいね。