2020.11.14 院長コラム
人類の進化
あらゆる生き物が、自然淘汰と突然変異を含む進化を重ねて今に至っているのはもはやカトリックでも認めることとなった。いつかローマ教皇が、進化論は否定しないが、その過程に神が介在しているのだと言うようなコメントをしていたような記憶がある。
それにしても、我々人間が類人猿から進化してきたとしたら、なぜゴリラと人間の中間のような、あるいは人間だが猿に近いような中間的な存在がないのか、今を生きる人間として疑問を持つ方は私も含めて少なくないだろう。
先日ある歴史学者の本「ゲノムが語る人類全史」(アダム・ラザフォード)を読んでいて、かなりその疑問に対するヒントが得られた。
それによると、人類の歴史上数千年単位でペストが流行して多くの命が失われてきた。最後の大流行は紀元500年代のローマ帝国時代のヨーロッパで、ペストが黒死病といわれ、大流行の後の小流行も含めて5000万人が死亡したと言われている。当時の世界の人口は今よりもかなり少なかったはずで、ヨーロッパの人口のとんでもない割合を死に至らしめた。このためにローマ帝国は軍隊の弱体化とともに衰退したとも言われている。 そのペストに対して、ヨーロッパ人の多くは、ペストにかかりにくい遺伝子変化を起こしていると言う。それはある遺伝子の一部が変化して読み取れなくなっているある種のエラーのように見えるところだそうだが、それが結果的にペストの細菌に対して抵抗を示しているとのこと。たまたまその異常を持っていた人間がたくさん生き残ったので、結果的にヨーロッパ人は同じ遺伝子変化を持つ人が多いともいえるかもしれない。
以上のような内容も含め、大変興味深い書物だった。
これは一つの例だったが、驚くべきことはこの数千年という我々が何とか認識できる短い期間でさえ遺伝子変化を伴う進化が起こっているという事実だ。ペストと遭遇する前のヨーロッパ人とその後のヨーロッパ人は遺伝子が変化しているといえる。見た目は変わっていないが、ある意味で違う人種になっている。
初めの感想に戻るが、猿と人間の中間がいないのではないかという疑問の答えは、「現在その間の存在ができつつあったとしても、我々のような超近視眼ではあまりにも見渡せる年月が短すぎてその変化が見えていない」のではないかと思われる。たとえば、急坂に立ったとして、先の坂の上はひどく上に見えても足先の1cm,2cm先はほとんど高さは変わらない。おそらく我々はそんな1~2cm先を見ているのだろうと思われる。
きわめて短期間しか記録のない人間でさえ進化しつつある。これは決してペストへの対応だけではないのだろう、いろいろと水面下で遺伝子変化が起こっている可能性がある。遺伝子学者はそれを一部認識しているとは思われるが、われわれ素人の目に見える結果が出るのはまだずいぶん先になるだろう。
2018/01/02