先日、頭に埋め込んで思考だけで外部の機械を動かせる装置が開発されたとの記事を見つけて、「ついに来るべきものが来たか。」と感慨深く記事を読んだ。その装置は頭の皮下に埋め込む小さな電子機器(マイクロチップ)であり、思考に伴って生じる脳の信号を感知し、電気的な命令として外部の機械やコンピュータに信号を送る。 これは、身体障害者の方々にとっては朗報である。神経の病気で手足が動かなくても考えるだけで自分の手足に仕込んだ電気刺激装置で筋肉を刺激して動かすことが出来るようになる可能性がある。また、手足を失った方々にとっては、同じように義足・義手を動かすことが出来るようになる可能性がある。 すばらしい可能性を秘めた装置だと思う一方、それだけでは割り切れないものが残る。今回の技術では情報の流れは脳から外部への一方通行である。テレパシーのように考えが伝わるのではなくあくまでも機械が脳波を精細に読み取っているに過ぎない。しかしもしも反対方向の情報の流れ、すなわち外から人間の脳へ電子的情報の入力が可能になると、いくつかのきわめて危険な状況が生じる。最大の危険は、コンピュータウイルスである。脳がコンピュータにつながると、現在のインターネットに接続されたコンピュータの代わりに脳味噌が使われるようになるわけだ。当然本人の望まない情報や暗示が誤って入力されてゆく可能性がある。コンピュータウイルスのように他の情報にひそかに隠された有害情報も脳に直接入力される。人間の脳は脳炎のウイルスよりもはるかに高い危険性でコンピュータウイルスの脅威にもさらされることになる。もう一つの危険は、人間のアイデンティティーの喪失だ。現在の携帯電話は時間と場所を飛び越えて人間同士をリアルタイムで結びつけることになった。これが便利でもあり、またうっとうしいものでもあることは皆さんご承知のとおりだ。携帯電話を使わなくても機械を介して脳から脳へ情報を伝えられるようになると、もちろん携帯電話は不要になる。人間は人工的なテレパシーを手に入れることになる。また、本を読まなくても情報はCDROMから脳へ直接入力され、知識は増えてゆく。しかしそのように情報量が増えるほど、本来の自分の思考と他人の思考が区別できなくなってゆくだろう。最終的にはアイデンティティーの矮小化と全員による情報共有により、マイクロチップを埋め込んだ人間はおそらく蟻や蜂のような集団的社会を形成できるようになる。個人と集団との区別がつきにくくなるのだ。これはあくまでも空想の危機である。しかし今回のマイクロチップの開発は、脳が機械と同一線上に並ぶ大きな第一歩であると感じ取った。 2007年01月01日
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